伊勢原市神戸 若者を火に投げ入れるどんど焼き
年が明けて1月15日あたりに行われる行事と言えば、小正月のどんど焼きである。どんど焼きはどんどん焼きや左義長などとも呼ばれ、正月に各家庭で飾った飾りを持ち寄り、まとめて火をつける。このとき飾りを焼いて起こった火で団子を焼き、その団子を食べると無病息災の願いが叶うといった言い伝えもある。どんど焼きのやり方は各地域で異なるものの、平均値をとればそのような感じであろう。ちなみに、このどんど焼きを海岸で大規模に行う大磯の左義長については以前記事を書いていたので、そちらも見ていただきたい。
伊勢原市の”珍百景”どんど焼き
各地で行われるどんど焼きは特段珍しいものでもなく、大体ローカルニュースでまとめてその開催が報じられる程度の扱いになる。ところがどんど焼きのやり方に何かしら珍しい特徴があると、毎年のように取材が来てテレビなどでも放映されるイベントになるものだ。その珍しいどんど焼きの例の一つが伊勢原市神戸(ごうど)で行われるどんど焼きで、飾りを燃やして起こった火に若者が投げ込まれるという豪快なもの。もし私がテレビ番組制作側の人間であったとしたら、画面切り替わりと同時に「せ〜の」と投げ入れられる場面が映って、「小正月を迎えた本日、各地でどんど焼き行事が行われました」とナレーションが被って、「伊勢原市の神戸地区では毎年お祝い事があった若者が火に投げ入れられます」と説明したあと投げられた若者のインタビューを映してどんど焼きニュース一丁上がりとするだろう。いかんせん分かり易い画を提供してくれるどんど焼きであり、ニュース番組での紹介以外にも2012年にはナニコレ珍百景で珍百景認定されるなどしたようである。
ただ、テレビで見るに留めず実際にこのどんど焼きを見学してみたいとなると、ネット上であんまり具体的な情報が出てこない。いや出てくるには出てくるのだが、一部には18:00頃開始と書いてあり、また一部には19:00以降と書いてあるなどどうも情報が錯綜しており不明瞭だ。あれだけテレビで取り上げられることの多いイベントの情報が少な過ぎやしないか。そう思ったので、その辺りを確認する意図もあって”珍百景”どんど焼きを見に行ってきた。
どんど焼きの行われる場所や段取りなど
事前に得ることの出来ていた情報では、テレビの映像として取り上げられるようなどんど焼きは夜に行われるけれど、同日(1月14日)の午前8:30から地区にある木下(こかげ)神社と呼ばれる小さな神社での例祭が行われ、どんど焼きもその神社の神事に付随した扱いになるということだ。
夕方頃に木下神社に足を運んでみたのだが、例祭を行った形跡などもあまり見当たらず、境内に縄が渡され紙垂が垂らしてあったくらいであった。
同日に少し北に上がった相模国三宮比々多神社でもどんど焼き行事が行われていたのだが、そちらの境内にあったお祭り感とは全く異なっている。例祭日の境内の雰囲気が無い。
木下神社の境内に張られていた縄は、地区の家々の間にも渡されている。大磯左義長で見た道切りのシメにも似ているが、道祖神にも関連する大根がぶら下がっているのは発見できなかった。
この縄の写真を撮ったのは国道246号の”比々多”信号の小径を北側に入っていった所であるのだが、さらに北側に行くと神戸の公民館があり、建物の前に藁と正月飾りで作った仮屋がある。
この仮屋が2基あるのがポイントなのだ。これによって開始時刻が18:00と書かれたり、19:00以降と書かれたりという現象の謎が解ける。それでは当日18:00以降からのどんど焼きの動きを追ってみよう。
どんど焼き前半は上地区のどんど焼き
18:00。神戸公民館の前には見学者とおぼしき人だかりが少々。マスコミっぽい人影は無い(毎年テレビで放映されたり、ローカルメディアに写真が載ったりするのに?)。公民館の中では木下神社での神事の後、14:00から神楽が披露されその後半纏を着た男衆が待機している状態であったのだが、座の中で艶歌の合唱が始まり18:10頃に若い男衆がぞろぞろと外に出てくる。男衆は2基ある仮屋の左側のものに群がり、設置された場所から引っこ抜いて神輿のようにそれを担ぐ。
そしてどんど焼きを行う指定の場所までそれを担いでいく。掛け声は「ヤートーサーセー、ヨイトコラサーセー」、さらにときに周囲の家々にぶつかりながら足取りもフラフラと暴れ担ぎをするなど、比々多神社例大祭で見た神輿の担ぎ方そのものである。違いと言えるのは、お囃子が鳴っていないことと暴れる直前に金物を鳴らして神の訪れを表現しないこと。これは時間帯の問題で配慮しているのか、あるいは仮屋が厳密には神輿と違って神様そのものではないということなのか、その辺りも興味深い。
どんど焼きの行われる鈴川の土手には、あらかじめ炎が燃え盛って用意されていた。その中に仮屋を放り込んで、火の勢いが収まってきたらみな近付いて団子を焼く。ちなみに炎の用意されていた場所は鈴川と東名高速高架との交差点である。
元々古くからこの場所で行われていたのか、それとも東名高速が出来てからこの場所で行うようになったのか。比々多神社の人形山車の移動範囲が東名高速高架の登場により短縮されたという事例もあるので、後者の可能性も充分にあると思われる。
下地区のどんど焼きがテレビで放映されているもの
公民館の左に設置されていた仮屋は、神戸の上地区のものであったらしく、そちらのどんど焼きが終了したのが18:40頃。それからしばらくはまた公民館内部で男衆が待機するかたちになる。大体19:00頃にテレビクルーがやってきて、19:45くらいに右に設置されていた下地区の仮屋を動かす段になった。また出立の前には艶歌が歌われ(ちなみに東京音頭の替え歌だった)、先程と同じように仮屋を引っこ抜く。
国道246号をわたって今度は先程よりも南側の地点でどんど焼きを行うようである。こちらがテレビで放映される若者が飛び込むどんど焼きなので、見学をしたいなら少なくとも19:30頃までに神戸公民館にいるか、あるいはどんど焼きの地点で待ち伏せしているのが良いだろう。
下地区のどんど焼きを行う地点は大体この辺り。
確かにこちらにはそこそこの人出があって、取材陣以外にも地元の方でない見学者もありそうだった。
そして炎の中に半纏を着た若者が投げ込まれる。「イチ、ニー、サン」の掛け声で投げ込まれて、投げ込まれた若者は慌てて炎から戻ってくる。マジックのタネも仕掛けもなく、本当に危険な通過儀礼的な行事だ。
家の新築などの目出たい事があった若者が投げ込まれるので、大磯の一番息子のようなこれから目出たい事があるようにと祈願するものではない。同じどんど焼きの周辺行事であっても違いがあるのであった。そもそも、この神戸のどんど焼きはあまり道祖神の気配のないどんど焼きという特徴があるかも。
そしてこの若者を投げ込むどんど焼きがいつ始まった行事なのかは不明であるが、投げ終わっていまだ燃え盛る炎に最後に全員で一礼を行うのが神事らしくとても印象的に見えるのであった。
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