本厚木の有名ラーメン店と言えば、何と言っても厚木本丸亭である。
…という書き出し、それからタイトルに至るまで麺や食堂の記事と一緒だが、実際この2つの店は本厚木のラーメン屋2枚看板と言っても良いほどで、優劣を付け難い店ではないかと思う。
厚木本丸亭 神奈川淡麗系塩ラーメンの泰斗
厚木本丸亭、麺や食堂この2店とも、店舗が本厚木駅から少し離れた県道601号沿いにある。麺や食堂は小田急小田原線の車窓から見える場所にあるが、本丸亭はそれよりも南に100mほど行ったところにある。県道601号が円弧状に曲がっていることもあり、本厚木駅から行くとしたら所要時間はどっこいどっこいだ。
本厚木では麺や食堂が神奈川淡麗系醤油ラーメンの泰斗であるのに対して、厚木本丸亭は神奈川淡麗系塩ラーメンの泰斗であるという。それならばその神奈川淡麗系って一体何ぞや?という話になるけれども、鶏出汁を使ってあっさりとした味であれば淡麗系になるらしい。そんなラーメンは日本中いたるところにあるはずだけれども、あえて神奈川のラーメンだけ”淡麗系”と呼ばれるのは、やはり神奈川で食べられるラーメンというとこってりした家系というイメージが蔓延しているからだろう。確かに、博多で豚骨でない普通のラーメンを食べさせる店が増え始めたとしたら、たとえどこでも食べられるような珍しくもないスープであったとしてもその現象自体には名前を付けたくなるだろう。
話が逸れてしまったが、その淡麗系の本丸亭は2001年くらいからこの本厚木でやっている。この店の2000年代くらいの行列は凄いものであったらしいが、現在ではそこそこ待たずに入ることが出来る。というのも、2000年代くらいに注目を集めたのは有名な店主がラーメン作りの達人としてメディアに紹介されることが多かったためで(中村屋や、なんつッ亭などと一緒に取り上げられていた)、現在はその名物店主が「塩らー麺本丸亭」という横浜の店舗の方に行って分裂してしまったということで、本丸亭の味を知りたくば本厚木の本店に行くべし、とは言いにくい状況になってしまったのだ。
厚木本丸亭塩ラーメンの味は一筋縄ではいかない
さてそんな厚木本丸亭の塩ラーメン。現在ではベース価格も850円からと、強気の価格設定である。まあZUND-BARでも820円からだし、中村屋が780円、麺や食堂の塩そばも750円からなので客もそれくらいの値段は覚悟して行くものなのかもしれないが。一世を風靡した店の塩ラーメンということで、初めて食べる人は一口目のインパクトを求めてスープを啜るだろう。そして、「あれ、物足りなくね?」「なんか塩辛いだけじゃない?」という感想が浮かぶかもしれない。実際私が初めて食べた時の感想、そんな感じでした。
一般にプレミアム価格の塩らーめんは、使っている塩がモンゴル岩塩だとかの高級塩であるため、一口目に塩のミネラル分が引き起こす雑味や甘味など分かり易い特徴が出易い。というか、価格に納得させるためそう作っている。それに対して本丸亭の一口目はシンプルな味わいで、まるで温かい海水を飲んでいるかのような感触だ。でも、麺を啜って具を食べ進めると、これが正しかったのだとわかる。
麺は佐野ラーメンで使われる製麺所の、青竹で打ったプリプリのもの。噛めば小麦の香りが口の中に広がる。具には細かく刻まれたネギ(噛めばネギの臭みと甘味が広がる)と、特徴的な春菊(噛めば苦味が広がる)。ワンタンは噛み締めると肉汁と強いショウガの香りが鼻腔をつく。共通しているのは、塩スープと組み合わされると個性が引き立って非常に美味いということだ。つまり単体で旨味を主張するスープをスープに対する添え物の麺と具で食べ進めるラーメンではなく、シンプルでオーソドックスな塩スープに合う個性をどんどん追加していきましたといったようなラーメンなのである。温かい海水のように感じられたスープは、象徴的な意味でも個性的な具を自由に丼の中で泳がせる海の水なのだ。そして具を噛み締めて一緒に味わうことで、塩スープの味の細部も引き立ち凄さが分かってくる。
創業者の名物店主たる金子透氏は、大阪の揚子江で働いてその後”丸亭”という豚骨ベースの店を出し、さらにその後店を畳んで本厚木に移り”本丸亭”を出した、と言われている。このスープを基調に具を味わわせるラーメンの珍しさは、確かに関西の料理の味作りなのかもしれない。塩分濃いめが好きな厚木以西味覚にも合わせてきている感じがあって、なかなか一筋縄では行かない、そんな感想でした。
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