話題のTSUTAYA図書館 海老名市立中央図書館に行ってみる

海老名市立中央図書館アオリ 商業施設
海老名市立中央図書館アオリ

2015年10月1日付けで、国内で2館目のカルチュア・コンビニエンス・クラブ(以下CCC)運営図書館(通称TSUTAYA図書館)として華々しくリニューアルオープンした、海老名市の中央図書館。TSUTAYA図書館になったことで、居住する自治体に関わらず誰でも資料を借りることが出来るようになったり、隣接するスターバックスで購入した飲食物を楽しみながら資料を閲覧できるようになったりと、およそ自治体図書館に似つかわしくない自由な利用が可能となった。

一方で、運営を任される事になったCCCは現在逆風の真っ直中に置かれている。TSUTAYA図書館の1館目にあたる佐賀県武雄市図書館のケースでは、開架図書数の増加や利便性の向上などが大々的に謳われ住民の期待も大きく2013年にオープンしたのだが、のちに様々な問題を抱えていることが判明した。そして導入を表明していた後続の自治体(小牧市)が住民投票により計画を白紙化するなど、TSUTAYA図書館とCCCに対する風当たりが強くなり始めている。
海老名市の中央図書館は、そういった風向きの変化が起こる以前に改装が進められ完成してしまったもの。今後の展開次第で、もしかしたら最後のTSUTAYA図書館として歴史に名を残してしまうかもしれない。

TSUTAYA図書館の既知の問題点

武雄市のケースで問題となっていたのは、リニューアルに当たり除籍された資料に、併設するTSUTAYAでレンタルを行う映画DVDなど464点が入っていたこと。また図書館が保存するべき郷土資料があったこと、などだ。TSUTAYA図書館となることで、地域の図書館としての役割を失ってしまい、ただの併設商業施設の客寄せ的存在に成り下がってしまうのではないかという住民の懸念が裏付けされたようなものだ。
そして、開架書籍数を増やすために購入した本の選定プロセスにも疑義が投げかけられた。購入先は当時CCCのグループ企業であった中古書店のネットオフであり、およそ地域住民に必要の無い資料ばかりの購入は、ただのネットオフの在庫処分ではなかったか、と囁かれている。
さらに、CCCへの図書館業務委託を推進した当時の武雄市市長が、退職後CCCが新設した会社の代表取締役社長に収まっていることについても、事業委託経緯の不透明感をいたずらに感じさせるものだ。当人のwikipedia項目など見ると、本人についての記述よりTSUTAYA図書館問題を含めた批判の方が記述が多い。

海老名市立中央図書館でも早速ゴタゴタが

海老名市立中央図書館では、CCC1社で図書館事業を行うのではなく、かねてより委託業者として入っていた株式会社図書館流通センター(以下TRC)との共同事業という形で運営を行っていく形となっていた。
オープンの日を迎えると、間もなく海老名市立中央図書館にも武雄市同様蔵書の質問題があることが判明し、またいくつかの蔵書について図書分類が不適切であるという指摘も受けることとなった。そしてそうした逆風に晒されたCCCに対して、TRC側が「理念が合わなかった」として関係解消を迫っているというニュースが流れた。これが10月27日のこと。
この関係解消のニュースが最初に広く報じられ話題となったことで、依然CCCが海老名市中央図書館運営から降ろされるものと認識している人も多いかもしれない。だが10月30日に海老名市長が行った会見で、少なくとも中央図書館においては両者の提携が、契約期間満了となる平成31年3月31日まで続けられるということが改めて強調された。
一連の流れを見ると、CCCの自業自得であるのは勿論のことだが、TRC側も批判の矛先が向かわないように、尻尾切りに急いだという印象がある。そもそもCCCに駄目出しを行う立場となったTRC自体、出版社と取次会社の出資により設立された私企業にすぎない。図書館業務の指定管理者制度導入に対応して、出資者達が蔵書選定で不利益を被らないよう、席埋めをしておくほどの存在意義なのではないだろうか。そこを突っ込まれると非常に弱いので、騒動に対して延焼を被らないよう尻尾切りを急いだと見ることも出来よう。

海老名駅から実際に歩いてみる

騒動はさておいて、TSUTAYA図書館の施設自体に興味があったので小田急・相鉄海老名駅から徒歩で向かってみる。リニューアル前も含めて初訪問となるので、駅からもきっとすぐだろうと高をくくって出発する。

小田急・相鉄海老名駅からの跨道橋

小田急・相鉄海老名駅からの跨道橋

ビナウォークの横道をすり抜け向かうと、道程に跨道橋があったりとかなり歩きづらい道であることに驚く。後で地図を見て思ったのは、徒歩で行くにしても一度JR海老名駅側まで出て、相模線線路に並走するナナメの道を使った方が良いかもしれない。

神奈川県海老名市上郷474−4

15分くらい歩くと、周囲にあまり灯りも無い場所に燦々と輝く建物が見えてくる。

海老名市立中央図書館アオリ

海老名市立中央図書館アオリ

道路側に設置されたスターバックスのオープンカフェが目立つ。照明のせいか、一見すると本当に図書館には見えない。

入口正面に吹き抜けが

入口正面に吹き抜けが

内装も館内中央の吹き抜けを活かしたつくりで、商業施設そのものである。照明のはたらきが大きいのだと思うが、とりあえず古めかしい市民図書館から脱皮したと言えるリニューアルだったのではないだろうか。

図書館としての海老名市立中央図書館

外装はともかく、重要なのは中身のコンテンツである。入り口から入ると、珈琲の香りを横目に蔦屋書店の販売物が並んでいる。館内に音楽もかけられており、カウンターにいる若い(ここ重要)スタッフは制服を着て待機している。
TSUTAYAの販売スペースと貸し出し図書スペースはきっちりと区切られているわけではなく、フロアによっては書架に囲まれて販売図書の机が鎮座している。あえて曖昧にすることで、図書館オンリーの利用を難しく、必然販売物が目に入るようにしているのだろう。
棚・備品類やフロアの表示は綺麗で、フォントに至るまで清潔感・高級感を醸し出している。そうそう、こういった細かい部分は民間でないと絶対に手を付けられないところだ。滞在中の満足度をアップさせようとする工夫は、公共施設として全く正しい。
書架のいくつかには液晶タッチモニタが付けられており、蔵書の検索やフロア情報の表示などが出来る。ただこのタッチモニタが表示しているのは中央図書館のホームページのようで、モニタに対して情報が適切なサイズに揃えられているとは言い難く、また操作に対するレスポンスもいまいちだ。デバイスの専用アプリケーションにできなかったかのかと思う。

蔵書や分類は、そこまで問題だとは思わず

そして、問題になっているともっぱらの噂の蔵書と分類。確かに蔵書については、パソコン関係の書籍が数世代前のWindowsやアプリケーションの参考書だったりする。ただ、あくまでここが市民図書館であるということを考えると、市民図書館の蔵書なんてみんなこんな感じではないか、見た目が新書店っぽいから最新の刊行物が手に入ると錯覚してしまい評価が厳しくなってしまうのではないか、と感じる。
分類について。たとえば旅行ガイドであれば47都道府県それぞれにブックスタンドを用意して陳列しており、各県についての書籍が少なくとも数冊並ぶように配慮している。ところが蔵書にそう都合よく同質の書籍があるわけでないから、たとえばある県のセクションに並んでいるのが2000年版のグルメガイドで、ある県は県内の特定観光地のガイドブックといったように、質のばらつきができてしまう。これは蔵書の補充が容易に出来る新刊書店にならって細かいセクション分けを行っているからで、細かく分けられた分類が蔵書の中の質の低い図書を目立たせてしまっているに過ぎない。もしこうした状況に不満があるのならば、47都道府県バージョンがあるガイドブックを図書館に寄贈すれば良いのだ。
不適切図書として指摘されたバンコクの風俗店ガイドだかについても、CCC側が反論しているように他の公共図書館でも蔵書として所有している館がある。そして指摘を受けて開架部分には置かないという対応を決めたのだから、何も問題は起こらないのではないだろうか。

TSUTAYA図書館の功罪を考える

海老名市立中央図書館をひととおり眺めてCCCによる運営の功罪を評価するならば、何より若者が集まるスペースとしての図書館の公共性を伸ばしたというところが評価するに足る部分だろう。訪問時に図書館の机には若者が多くおり、それぞれの勉強やPC作業等に集中していた。その誘因となったのは、市民図書館にありがちな薄汚さの排除と、若いスタッフが中心であることによる場違い感の排除であろう。どうも年配公務員スタッフばかりの図書館では、若者も利用状況を監視されているようで、虫の居場所が悪くなるというところがあるのではないだろうか。
利用可能時間が年中無休の9:00〜21:00となったことについても、下校後の勉強場所を求める学生にとってはありがたいことだろう。リニューアルにより誰のための図書館となるか方向性は様々に考えられた中で、学生利用者の自習室的利用を促す方向性ができたのは、自治体にも恩恵をもたらす好事だ。
一方、予算の制約のためなのか施設の青写真通りの実力が発揮できていない部分が目立ち、それが細かな不便となって現れている感がある。蔵書が足りずにまばらになってしまっている分類や、件のタッチモニタの件であるが、こうした部分の改善には追加予算が発生するので、あまり早急な解決は期待できないかもしれない。
不適切図書の件などを見ると、指定管理者としての立場の弱さに比例して批判に対する対応は早いと言える。これがもし公務員による運営であったら、対応はのらりくらり、一向に解決しないでうやむやになってしまうだろう。つまりあら探しに熱意をもった住民がいて、CCCが批判にヘコヘコしている現状というのは、ある意味理想的な運営体制なのだ。

場所としては行き辛いので、観光名所化はしないだろう

武雄市の図書館のケースでは、TSUTAYA図書館が新たな観光名所となることも期待されていた。利用者を地域住民に限っていないことからも、そうした立ち位置を与えられることは想定しているのだろう。
でも海老名市立中央図書館の場合は、何と言ってもアクセスが悪い。ビナウォークやららぽーとから徒歩2、3分位の位置にあったのなら、海老名の目玉施設として周辺自治体からの集客に一役買っただろう。まあ、それ故に学生や住民が落ち着いてサードプレイス的利用をすることができるのだから、勿体ないという感はないか。
そんなわけで、海老名市民でない身としては頻繁に通うことはないと思う。でも在住する自治体にあったら面白い施設かな。

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